遠くあの空のむこうに

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享楽の都



 王都を発って、二日が過ぎた。初日を除けば、船旅は大変順調に進んでいる。

 朝焼けの柔らかい赤に染まる世界を、船はゆったりとフェニテ川を往く。ちなみに、この船、朝焼けより余程華やいだ桃色の雰囲気を醸し出している。
 
 まず、忙しく立ち働く船員達の顔は、何となく締りが無い。朝食を取る部屋の、簡素な長いテーブルには、卵、パンなどの定番の他に、何故か手の込んだ洒落たケーキがある。

「…まあ、いいけどよ」

 まだ誰もいないテーブルの脇で、ゴドーは腕を組んでため息をつく。気持ちは分かるのだ。とても。

 なにせこの船、予定に無かった美女達を二十人ほど乗せている。ゴドーはパンを盛られた籠からいくつか見繕い手に持つと、花が飛んできそうな女達の声が近づいてくるまえに、その場を退散した。

 甲板の上には人影は無い。船のすぐ横を、水鳥達が気持ちよさそうに併走して飛ぶ。ゴドーはパンをかじりながら水鳥達を目で追った。くあ、くあ、と水鳥は幾度か鳴いて、穏やかな風に羽をたて、水面すれすれから一気に船の遥か上まで上昇する。目で追えば、のぼり始めた太陽が目を焼いた。ゴドーは手をかざす。

 水鳥達は、空を踊るように互い違いになりながら、陸のほうに飛んでいった。その先には、王都とはまた違う大きな都市の陰がある。背が高く先の尖ったレンガ造りの建物と、新緑の木々で構成された景色は、まるでお伽話の挿絵のようだ。

「リンシュルの町ですね…別名、享楽の都」

 いつの間にかゴドーの隣には、紅茶のカップを持ったギリアムがいる。ギリアムは皿に乗った白いカップを、完璧な動作で口元に運んだ。彼と共にあると、湯気までが優雅に見える。

「食事は済んだのか?」

 ゴドーは口の中に残った最後のパンの欠片を飲み込むと、手についたパンくずを掃った。

「ゴドー様こそ。船室に下りて食事されたらいかがですか?」

 ギリアムの目が、意地悪そうに細められる。ゴドーはちょっと情けない顔をした。


「悪いが、遠慮する」

 実は先日助けた美女達の視線は、殆どがゴドーに向けられている。それも無理の無いことだった。ゴドーはたった一人、ごく少数とは言え王軍を倒した盗賊達に挑み、圧倒的な強さで女達を窮地から救ってみせた。更に、敵味方無く死者を弔い、生き残りの盗賊を件の船のマストに縛りつけ、王に献上される筈だった女達を、闇に紛れて当然のようにギリアムの船に乗せた。

「全く、後先考えてます?」

 そのときのギリアムは呆れ顔だったが、これで気持ちが揺れない女などいないだろう。加えてゴドーは民に人気の高い『傭兵将軍』であり、更に付け加えれば、見目も悪くないのだから、それはもう止めというものだ。ギリアムは「吊橋効果ですね」と、冷たく言ってのけたものだが。とくに、盗賊に刀を突きつけられた金髪の娘…フアナは、ゴドーへの熱い視線を隠そうともしない。

「まさかこんなことになるなんて、思わなかった」

 嬉しくない訳はないが、ゴドーはそんなに器用な方ではない。

 逃げ回るゴドーを見るのは、正直ただ淡々と続く船旅の良い余興くらいにギリアムは思っている。が、フアナの積極さは、冗談でなくそろそろ夜這いでも仕掛けそうな雰囲気だ。例え一時の気の迷いでも、一線を越えてしまったら、ゴドーは器用でないがゆえに「責任をとる」とか言い出しそうだ。任務半ばにして、離脱は困る。ギリアムの未来図にも、そんな終わり方は用意されていない。

 本当なら、キハンのセト老に全員を押し付けてしまおうと考えていたのだが。

「ゴドー様、これから少しリンシュルに寄らせていただきます」

 その言葉を合図にしたように、船が軌道を変え始める。キギギ、と音がして、船からの景色が流れてゆく。目の前に迫るは、王都から数えて第三の州・センシアの州都リンシュルの街。華やかなりし、リンシュル。自然、ゴドーの心は浮き立つが、任務の事を思うと、そう呑気にしていられるものでもない。

 ゴドーは、紅茶を飲み終えたギリアムを見た。空になったカップからは、紅茶よりも甘い匂いが強く漂う。涼しい外見に似合わず、意外に甘党のようだ。

「幾ら久しぶりに外へ出たからと言っても、観光はマズイだろ、ギリアム。そりゃ、船のお陰で、日程に余裕はあるが」

「誰のせいだと思っているのですか、全く。とにかく、ご婦人がたを知人に預かってもらいます」

 棘を隠そうともしないギリアムの台詞に、心なしかゴドーの表情が安堵に緩んだ。噂をすればで、急に甲板と船室を繋ぐ扉が勢いよく開いて、金髪の積極娘ことフアナが現れた。豊満な胸に、果物籠を抱えている。

 フアナの姿に思わずのけ反るゴドーを、ギリアムが半眼で見た。国一番の剣士とも言われるのに『女に弱い』とは。口の辺りがムズムズするのを、ギリアムは紅茶で飲み下そうとして、カップは既に空なことに気付く。

「まあ!ゴドー様!こんなところにいらしたのですね!幾ら春を迎えたとは言え、まだ朝は寒うございますのに…さあ、暖かいお部屋でお食事にしましょう!」

 逃げる間も無く、ゴドーの腕に白い腕が絡みつく。ゴドーの顔が固まった。

「…その素早さなら、ゴドー様に助けていただかなくても逃げられたのではないですか」

 ギリアムの嫌味は、ゴドーに寄り添うフアナに聞こえた模様。フアナは茶色の目を細めてギリアムを睨む。

「あら、ギリアム様、いらっしゃったんですか。気付かなくて申し訳ありません。ギリアム様もご一緒にいかがですか?隅っこの席が空いていましてよ」

 さすが王の傍仕えと集められただけあって、二十人の娘たちは、皆裕福な出自であるらしく、立ち振る舞いは上品だ。このフアナも例外でなく、センシア州のとある町長の娘ということだが、言葉は丁寧でも内容はキツイ。

「分かりやすい皮肉、ありがとう」

 色々大人気ない台詞を咳払いで飲み込んで、ギリアムがそう返すと、フアナは「どういたしまして」と笑って、ゴドーを無理矢理引っ張っていった。

 船が港に入っていく。

 面倒事は、早めに片付けたいものだ。ギリアムは美しいお伽話の町並みを、見る者が見惚れそうな憂いを帯びた深い藍の瞳で見つめた。



***



 石畳の上を、辻馬車がゆく。三人の客を乗せるとき、やたら給金を弾まれて喜んだ初老の御者は、少し後悔しながら、天蓋の無い粗末な客席の様子をちらりと伺う。

 大柄な剣士と、外套を着た青年と、どうしても胸元に目がいく娘と。三人三様だが、みなそれぞれ見目形が良い。特に外套の青年は中性的で不思議な魅力を持っている。

 それだけなら目の保養と喜べば良いのだが、雰囲気が悪い。険悪と言ってもいい。逞しい剣士の隣に、足を組み頬杖をつく青年。そして御者と背中合わせのため顔は見えないが、どうやら怒っているらしい娘。どうにも悶々とした空気が、御者にはいたたまれなかった。早く目的地に着くように、と、いつもより若干強めに鞭を振るう。馬が不満そうに短く鳴いた。

 道沿いに建つ家々の軒先には、様々な花が飾られ、雑多に露天があり、馬車や人が行き交う。
 現王ハウレギの魔法嫌いで王都では見ることの少ない、魔法使いの大道芸者も、ちらほら見られた。通りの端に立つ若い魔法使いの両手で、水の玉が幾つも跳ねる。
ゴドーは他二人の険悪な雰囲気に気付かぬふりをして、魔法使いの水球を見た。水球は弾けて小さな玉になり、また合わさって大きな玉になる。通りすがりにただで見てしまうのは、勿体無いようだ。

 リンシュルの街は、『巨人の足跡』という意味を持つタイタニア湖畔にある、遊興のためだけにある都市だ。王が変わってからの圧政で、最盛期の勢いは無いが、闘技場、賭場、競馬場…花街まで、遊びに関することなら、何でもある。

 特に有名なのは、劇場だった。小さなものから、大きなものまで、何十と言う劇団が、それぞれ劇場を持っている。

 ゴドー、ギリアム、フアナを乗せた馬車は、目抜き通りにある劇場の前で止まった。左右の建物に窮屈に挟まれた建物は、それ程大きくはない。まだ昼前だというのに、沢山の観客が列を作っている。
入り口へと続く、幅の広い階段の横には、赤い薔薇の花が惜しげもなく飾られていた。上階から垂らされた黄と紫の旗には、それぞれに違った絵柄が、見事な刺繍で描かれている。上演中の演目の一場面らしい。

「…ここに、ギリアムの知り合いがいるのか?」

 ゴドーは馬車から降りてまず、旗の刺繍の絵を見上げた。黄のほうはよく分からないが、紫は創世記のようだ。

 全能の女神・シンラが、息子である少年神を失いながらも、邪神ワードワープを冥界に封じ、世界に安寧をもたらす物語。この辺の国々の子供は皆、女神シンラの素晴らしさと、邪神ワードワープの恐ろしさを子守唄にして育つ。

「ええ、まあ…本当は会いたくないのですが」

 ギリアムはちらっとフアナを見る。馬車から降りたばかりのフアナの頬が膨らんだ。

 フアナの繰言が始まる前に、ギリアムは並ぶ人々を避け、細い路地の奥、小さな木戸を叩く。何度か繰り返すと中から戸が開いて、劇団員らしい青年が現れた。青年は憮然と腕を組み、ギリアムを見て、それから目を見張る。

「もしかして、役者志望?公演前で忙しいんだけど、君なら話を聞いてあげてもいいよ」

 完璧な曲線を描く顎に青年の手が伸びる前に、ギリアムは一歩後ろに下がった。

「残念です、用向きが違う。ここの座長にお会いしたい」

 当てが外れた途端、青年の顔は厳しくなった。

「今忙しいって言っただろ?座長は出番前で気が立ってんだ。訳の分からない奴に係わっている暇なんざ」

 まくし立てる青年を、ギリアムがやんわりと遮る。

「座長…ミルレットに伝えて下さい。手紙が趣味の男が来たと。…言わないと、後悔することになる」

 ギリアムの目配せに、ゴドーは仕方なく腰の剣に手をかける。全く、こいつは俺を用心棒代わりくらいにしか思ってないんじゃないのか。

 ゴドーの内心の呟きはともかく、青年には効果があったようで、少し怯む。それと同時に、青年の後ろから、ドドドド…と、勢いのよい足音が近づいてきた。

「ちょっと、アンタ、舞台に間に合わないじゃない!こんなところで油売ってないで、さっさと裏方に…」

 勢いのよいハスキーな声とともに、青年が蹴倒される。

 現れたのは、何と言ったらいいのか…男には違いない。筋肉質の身体を、舞台衣装なのか、派手な鎧が覆っている。ゴドー以上に背も高い。うん、間違いなく、男だ。

 だが、ゴドーとフアナは失礼ながらその人物の顔を凝視する。舞台用に白く塗られた顔。長い付けまつげに彩られた瞳は青。逆立った髪は、金髪。フアナはゴドーと大男を見比べる。

「もしかしなくても、ゴドー様の格好?」

 フアナが淑女にらしからぬ行為で、思わず指差したとき、化粧した大男はギリアムに飛びついた。

「ギリアム?…ギル!お久しぶりねっ!やっとオウチから出てくれたのねっ。憎らしいくらい綺麗になって…ホントに食べちゃいたいくらいよっ」

 厚い胸板に、ギリアムが押し潰される。ゴドーとフアナの口は、益々大きくぽかんと開いた。

 一頻ひとしきり熱い抱擁を一方的に咬ましたあと、大男がギリアムを開放し、ゴドーを見る。

「まああ!どうしましょう!もしかして…『傭兵将軍』ご本人ねっ!ああ、何て素敵なんでしょう!!…はっ、私ったら何てハシタナイ。ああでも、どうしましょう!」

 ギリアムが体勢を立て直す中、ひとり頬を押さえてくねくねした大男が、突然キリッとしてゴドーに右手を差し出した。ゴドーは思わずその手を握る。

「お初にお目にかかりますわ。私、ギルの親友にしてリンシュル一の大俳優、ミルレットと申します。ああ、色々とお話したいのだけれど、公演の時間なの!…そうだ、どうぞ私の舞台を見てくださいな。急いで席を用意しますわっ!ギルと、そこの小娘の分も。…ああ、もう、どうしましょう!憧れの人の前で上手く演じられるかしらっ!緊張しちゃうわっ!」

 もしかして、いやもしかしなくても、世に言う『オカマ』…。

 ミルレットは蹴倒した青年の襟首を掴むと、三人に手招きして嵐のように中に入って行った。

「………ギリアム…お前さんが会いたくない理由が分かる気がするぜ」

「…分かっていただけて、光栄です」

 ゴドーの呟きに、ギリアムは赤くなった鼻を押さえつつ力なく応えた。



***



 ぼ、ぼ、ぼ、と次々に音がして、暗かった舞台に幾つかの丸く淡い明かりが灯る。火のようで火ではない、魔法の明かりだった。場面は砂漠。本物の砂が敷かれ、背景には青空が広がる。

 しんと静まり返った満席の劇場。舞台中央、傭兵の男に扮したミルレットは、ひざまずいた姿勢から、ゆっくりと立ち上がる。ミルレットの下には、前の場面で倒した、ドラゴンのしかばねがあった。屍に刺さったままの剣を、ミルレットは大仰な仕草で引き抜き、深く息をついて剣を鞘に収める。

『もう何も心配は要らない。出て来るがいい、美しき女王』

 朗々とミルレットの声が響き、台詞と共に右腕が虚空に伸ばされる。舞台でのミルレットは先程のオネエ口調の彼とは別人のようだ。その凛々しさと憂いを帯びた瞳に、ゴドーの隣の座席に座るフアナからため息が漏れる。

 ミルレットの差し出された手の上方から、ひらひらとした白い薄絹を幾重にも纏った、黒髪の美女がゆっくりと舞い降りる。無音の世界に、少しずつ広がる叙情的な音楽。

『ああ、やはり、貴方はこの不毛の砂漠に遣わされた勇者。永い時を孤独に耐えたかいがありました』

 砂に舞い降りた砂漠の女王は、感極まったようにミルレットの手を取る。二人は見詰め合う。何度かの躊躇ためらいのあと、砂漠の女王はミルレットに抱きつく。ミルレットは目を閉じ、女王の華奢な背にそっと手を添わせる。その手は『貴女の気持ちには答えることは出来ない』と言っていた。

「あの殺伐とした砂漠でこんなことはなかったが!」

 ゴドーは思わず口元を覆い、呟いた。全身に鳥肌が立つ。あれが自分の事かと思うと、意味も無く歯が浮きそうだ。

「良いのです、お芝居なのですから」

 独り言のつもりだったのだが、反対隣のギリアムが観客の反応を楽しむように見回してから、そう答え、満足げに頷く。

 舞台の音楽は、徐々に悲しげな旋律に変わっていく。同時に魔法の明かりは少しずつ暗く、紫色の光に変わる。舞台の二人は名残惜しげに離れた。

『さようなら、頼もしい私の勇者。私たちは同じ時を生きることは出来ないのですね。ここでお別れです』

 砂漠の女王は声を震わせて、涙を流す。ミルレットは思わずその涙を掬おうと手を伸ばす…が、女王は眉根を寄せて、その手を避けた。

『また、いつか』

 やっとそれだけ言うミルレットに、砂漠の女王は力無く頭を振る。そして、寂しげな笑みを浮かべた。

『きっと何処かで、貴方を待つ方が居る。もし…もし、そのような方とあうことがあれば、何があっても、その恋が幸せの実を結ぶよう、私は祈りましょう』

 言い終えた女王の周囲が、闇に包まれて、その姿が消える。ミルレットはその姿を追おうとして数歩前へ…立ち止まり、きつく両手を握り締めると、くるりと背を向ける。

 彼方此方あちこちから、嗚咽を堪える物音がする。音楽は最高潮だ。闇の迫る舞台、ミルレットは向いた方向に、振り返らずに歩き出す。強い意志を込めた瞳で、前だけを見て。

 そして、暗転。音楽が止み、ミルレットの低く悲しげな声だけが響く。

『さらばだ、美しい人。貴女の久遠の命が安らかであるよう、私も祈ろう』

 余韻を残して、ミルレットの声が消える。少しの静寂のあと、割れんばかりの拍手が起きた。
客席から花が飛び、口笛も飛ぶ。

「ここまで事実と違うと、いっそ清清しいな、もう」

 ゴドーは俯いて眉間を押さえる。ギリアムがくすりと笑った。

「前人未到の砂漠を越えておきながら、何も語らないからですよ。…それは、父ゼオルも同様ですが。貴方と父の物語は、巷に幾つも存在しております。だからこそ、書き易いというものです」

 ギリアムの呟きは、拍手の音に掻き消されてゴドーには聞こえない。

「何か言ったか?」

「いえ、何も。さあ、明かりが灯る前に、此処を出ましょう。万一本物が居ると気付かれると、面倒ですからね」

 ギリアムとゴドーはまだ余韻から抜け出せないままのフアナを促すと、劇場から出て、ミルレットの楽屋へと向かう。楽屋の前には先程ミルレットに蹴倒された青年が居て、不本意そうにドアを開けてくれた。

「…凄い、素敵!」

 フアナの茶色の目は、もうキラキラとしたままで、中に入るなり部屋の傍らにずらりと掛けられた舞台衣装に飛びつく。ギリアムはさも当然のように、鏡の前の豪奢な椅子に座り、その前の小さな椅子をゴドーに勧めた。

「いや、役者とは大したものだな!先程の人物とはまるで別人だ…内容はともかく」

 ゴドーが感心のため息を吐き出したとき、ドアが勢い良く開いて、花束を山と抱えたミルレットが登場する。

「これ以上ない褒め言葉だわ!ご本家にそう言っていただけて!」

 ミルレットは花束をギリアムに押し付けると、ゴドーに抱きつく。ゴドーの背を鳥肌が駆け上がったが、幸いにも直ぐに離れてくれた。

「だ、だが、ミルレット殿。俺は王の厄介者だ。こんな演目を堂々と演っていては、王宮…州候に目を付けられるのではないか?」

 何とか体勢を立て直し、ゴドーがミルレットに問う。

「あらあ、大丈夫よぉ。そりゃ、誰が観ても貴方がモデルと分かるけれど、お名前は使っていないし、此処の州の頂点の人は、貴族でも珍しく反王派なの。ゴドー様の大ファンでもあるわ。それに、最盛期より収入は落ちたけど、享楽の都市と言われる此処の税収の前には、王様も何も言えないのよ」

 ミルレットは鏡の前で身を屈め、顔にたっぷりのクリームを塗りながら、ゴドーに片目をつむってみせた。収まりかけたゴドーの鳥肌が、面白いくらいに復活した。

「でも、観に来ている方たちはどうなのでしょう?私はすっごく感動しましたが、こういうところに遊びにいらっしゃる方は、それなりにお金に余裕のある方でしょうから、その、ゴドー様のことを良く思わない方も…」

 衣装を物色していたフアナが、遠慮がちに言う。ミルレットは柔らかそうな布で顔を覆いながら、ふん、と鼻を鳴らした。

「うるっさいわね、小娘…」

「フアナです!」

「小娘は小娘よ!…まあ、最初はね、風当たりも強かったわ。だからね、専属の劇作家に相談したの。そうしたら、料金を下げろって言うのよ、最初はどうかと思ったわ…でもね、少しずつだけど、お金持ちじゃない方たちも見に来てくれるようになって、今は、そうねえ…半々くらいかしら…共通するのはね、皆、主人公を好きって言ってくれるのよぉ、もう嬉しくて」

 顔をしつこいくらいに拭ったあと、ミルレットは顔から布を外し、ギリアムに向かって微笑む。

 素顔のミルレットは、美形とまでは言わないが、何処と無く気品のある顔立ちをしている。演じているとき、ゴドーと同じように逆立てていた金髪は、いつの間にか柔らかく下を向き、細面の顔を彩っていた。貴公子然としていると言っていい…話し方と、上半身裸の上に羽織った、フリフリのガウンさえなければ。その着方はかなり崩れていたから、フアナが娘らしく目のやり場に困っている。

「ただ、本当に良い話だと思うのだが…あまりの現実との違いがな」

 命を賭けた冒険だった。本当にそれだけで、甘さの欠片も無かった。思い出したくも無いから、特に語らないだけだ。
 
 ゴドーが頭を掻くと、ギリアムが笑った。

「ご心配には及びません、ゴドー様。主人公は変わりませんが、内容は一新しますから…本当はもう少しあとで渡すつもりでしたが」

 淡々と言うギリアムに、ミルレットの顔が輝いた。

「待ってたわ、ギル!やっと新作を書いてくれたのねっ!!貴方はオウチに引きこもったきりでこの頃お手紙も滞っていたから、王都からの使い鳥が来ないかと、何度空を見上げたことか…!」

 喜ぶと抱きつかずにはいられないらしい。はだけた胸を広げるミルレットに抱き取られる前に、ギリアムは椅子から素早く立ち上がった。

 それにしても、まさかギリアムが書いていたとは。意外な才があるものだと、ゴドーは呆れ半分、感心半分だ。

「また、俺が主人公か…嬉しいのか、微妙なのだが。せめて、恋物語は止めてもらえると助かる」

「砂漠の女王からの恋慕を断ち切って、美しい娘と恋に落ちるとかどうでしょうか、ギリアム様!お相手の名前は是非、『フアナ』でお願いしたいですわ!」

 フアナが夢見る乙女の瞳で言うと、ミルレットは「図々しいわねえ」と嘆息する。ギリアムは微笑んで、懐から少し厚めの白い封筒を取り出した。その封筒には、小さなリンドウの絵柄がある。

「残念ながら、恋物語ではありません。これは、真実の物語。この先、どうなってゆくかは、全て、主人公次第です」

 ギリアムがゴドーを意味ありげに見る。深い紺の瞳に、真剣な色が宿った。少し前にこの目を見た。そうだ、王都を出るときだ。『この国に貴方が必要だ』と言ったときと同じような。

「ギリアム…」

 何を考えている、と続けようとした。が、ミルレットがゴドーを遮り、ギリアムの持つ封筒に飛び付く。

「真実の物語…素敵じゃない!さっそく演らせてもらうわ!」

「ミルレット、申し訳ないが、条件があります…。このフアナを含む、少しばかり訳ありの女性を二十人程、私がいいと言うまでかくまって欲しいのです」

 一瞬の沈黙の後、ミルレットとフアナが同時に「えー!」と抗議の声を上げた。

「こんな五月蝿うるさい小娘を、二十人ですってぇー!!」

「五月蝿いのはフアナだけだと思いますが」

「ギリアム様!私、五月蝿くなどありませんわ!ゴドー様、私、貴方と離れたくありません!」

 ぎゃーぎゃーと収集のつかない楽屋のドアが、遠慮がちにノックされ、若い劇団員が顔を出し、昼休憩を告げられる。ミルレットはそれに返事をすると、仕方なさそうに肩をすくめた。

「ギル、細かいことを交渉しましょう。今日の私の出番はこれで終わりだし。ゴドー様、よかったら午後の創世記も見て行ってくださいな。面白みの無い定番ですけれど。…小娘はちょっと顔貸しなさい。今夜は部屋を用意しますから、どうぞ、楽しんでね」

「すまない、ミルレット殿」

「ゴドー様にそう言われちゃ、益々断れないわねー」

 ゴドーに駆け寄ろうとするフアナは、あっさりミルレットに首根っこをつかまれ、子猫のように連れ出される。あとに続くギリアムが、ゴドーを振り返った。

「思わぬ休暇となりましたね。ミルレットはああいう男ですが、必ず引き受けてくれるでしょう。フアナ達は、理由はなんであれ、我々が王から奪った形になっている。表に出すわけにはまいりませんから…フアナの貴方に対する積極さのお陰で、良い隠れ場所が見つかりました」

「ありがたい事だが、ミルレット殿や劇団に迷惑にはならないのだろうか」

 二十人もここに居ては、さぞ邪魔だろう。それに、ギリアムには悪いが、不特定多数が出入りする劇場という場所は、隠れるには適さない気がする。

 ゴドーの内心を読み取ったかのように、ギリアムは目を細める。

「ゴドー様、ご安心を。彼女達の借りの住まいは、ここではありません。この州で、一番安全な場所です。それにとても広い。口うるさいフアナも、きっと気に入ると思いますよ」

 外からミルレットの声がする。ギリアムはそれに軽く返事をすると、「では、夕刻迎えに参ります」と言って静かに部屋を出て行った。

「…ギリアムのあの勿体ぶった話し方は、何とかならんものかなあ」

 呟いて、ゴドーは椅子から立ち上がる。ふと鏡に映る自分に気付き、顔を寄せる。
 翡翠色の瞳が、こちらを見ている。精悍で無駄な肉の無い輪郭。元々は白かったのかもしれない、日焼けの赤銅色が定着しつつある滑らかな肌。そういえば昔、豹のようだと言われたことがあった。

「まあ、悪くはないよな?」

 自分に言ってみる。が、昔から容姿に頓着したことはないから、実はよく分からない。舞台のミルレットを思い出す。…俺はあんなに情熱的な目をしたことがあったろうか?少なくとも、この国の軍に入ってからは、無い。『将軍』という役職を身に纏うために、意識的に熱いものを遠ざけてはいないだろうか。

 ゴドーは眉に力を入れ、口を引き結んでみせる。鏡の中の自分が、無理をしているように見えた。

「なんて、な」

 鏡から離れる。胸に手を当てる。ギリアムが言った、『真実の物語』という言葉が何故だか胸を過ぎる。俺の心を燃やすような何かが、この旅で見つかるだろうか。

 何だかんだと、ミルレットの劇の余韻に酔っているらしい。午後の劇はどうしようかと思ったが、ゴドーは気分を変えるために、外を歩いてみる事にした。先程見た魔法使いの芸を、もっと良く見てみたい。



***



 ミルレットの雰囲気は、先程までとは随分違う。乱暴に歩いても足音がしないほど毛足の長い絨毯の上を、何度も行き来する。

 その部屋は広く、調度類は華奢で繊細そうなものが揃えられている。窓から昼過ぎの暖かい光が降り注いでいた。ギリアムは柔らかく腰を包むソファにゆったりと足を組んで、数年ぶりに会った学友が思案顔で歩き回るのを見守る。

 やがてミルレットは歩みを止め、窓辺に寄りかかった。金色の髪が、陽光に透ける。逆光の顔は、表情が険しい。

「…お手紙もあまりないし、ずっとオウチに居たのが、急に出てきたから何かあるとは思っていたけれど…まさかそんなコトを考えていたとはねぇ。ギル、本気なの?」

「ええ、勿論。末成うらなり王一人ならまだしも、恐らくごく最近、誰かが後ろに付いた…でなければ、突然我が妹を王の元へ、という話にはならなかったはず。父は民に人気のある人ですから、妹を人質に、縛りつけて置きたいのですよ。全く、分かりやすい。王の後ろでこそこそと動く人物は、まだ誰かは分からない。まあ、我が家の内情に詳しいようですから、自ずと見当は付くのですが。とにかく、民意を下げない為…という考え方が気に入らない。何故なら、その考え方の前にくる言葉は、絶対に良い理由ではないからです。『何か良くない事をしても、民意が下がらないように』という具合に」

 ギリアムは一息に話して、深いため息をつく。それは感情から来るものではなく、単に話疲れただけのものに、ミルレットには見えた。

「…こう見えて人一倍この国を憂えているつもりなので、私は心労に耐え切れず、外に出て来たのですよ」

「よく言うわよ、涼しい顔して。…まあ、もしそうなるなら出来るだけ協力するわ。女の子達も喜んで預かりましょう。丁度メイドを探していたし、この際みっちり完璧なレディに仕込んでやるわ。…でも」

 ミルレットは女らしい柔らかな仕草で首を傾げる。

「肝心のゴドー様は、どうかしら?お噂通り偉ぶったところが無い素敵な方だけれど、何ていうのかしら、こう、お心が見えないのよねえ。何か、無理をしていらっしゃるように思うわ。ギルの思い通りにゴドー様のお心を溶かすことが出来るかしら?」

「さあ、こればかりは何とも。ゴドー様が動かないなら、私の話はそこで終わり。ゴドー様でなければ、意味がないのですから。私は妹も国民も幸せになって貰いたいと思っていますし、ついでに私の夢も叶う。」

「夢ねえ…可愛らしい少年の頃に言っていたものね、お父様の跡を継ぎたいって。本気だったのね?」

 ギリアムは答えず、長い足を組み替えた。



***



 この旅は、始まったばかりだと言うのに意外なことが良く起こる。今だって、ゴドーは美しい姫君を乗せることしか似合わなそうな、白い馬車に揺られている。窓に映るのは、おとぎ話のお城。青い屋根の、先端の尖った幾つもの塔と、城へと続く繊細な欄干のある橋が印象的だ。

「まさか、ミルレット殿が州候だったとはな」

 驚きを通り越して、呆れるしかない。

「事実は小説より奇なり、と申します。前州候である父君が早世されて近頃後を継いだのですが…ミルレットはあれでも若いながら州の民に慕われる良い州候なのですよ。王宮を嫌って謁見など滅多にしない男ですから、ゴドー様がご存じないのも無理のないことです」

 隣に座るギリアムが、落ち着き払って言う。ギリアムもギリアムだ。どうせなら最初に教えてくれればいいものを。

「…好奇心から聞くが、謁見の時もあの調子か?」

「ふふふ、まさか。彼は役者ですよ。その場を取り繕うなど造作も無いことです」

「まあ、そうだろうけどな」

 歴戦の剣士は、そう言って腕を組んだ。あのままの方が面白いと思ったが、黙っておいた。


 享楽の都を有する、王都から数えて第三の州・センシアの州候ミルレットの城は、『巨人の足跡タイタニア湖』の湖畔にある。厳密に言えば、岸辺近くに浮かぶ小島に、その城はあった。夕日もだいぶ沈み、城には魔法で作られた丸い明かりが幾つも揺れている。明かりは水面に映り、幻想的な雰囲気を作り出していた。まさに、享楽の都に相応しい城だ。

「ゴドー様を私の城にお迎え出来るなんて、夢のようだわー!さ、どうぞ中へ。表立っての大歓迎とは行かないのだけれど、どうぞ寛いでくださいな」

 城門を潜り馬車が止まるなり衛兵より先に城から飛び出してきたミルレットが、ゴドーの手をとると、ぶんぶんと振る。ミルレットの格好は何とも派手で、白い羽毛で首周りを縁取った真紅の艶やかな上着と、ぴったりとした黒のズボンを身に着けていた。背が高いから、余計な迫力が増す。

「本当に色々と済まない。ところで、フアナたちは?」

「フアナは、与えられた部屋で膨れてます。船の娘達は…目立つのは良くありませんから、深夜に連れてくる手筈です」

 ゴドーの耳元で、ギリアムが囁く。ゴドーは頷いた。とりあえず肩の荷が下りた。…フアナには悪いが。

 踊りだしそうなほどはしゃいだミルレットに城の中を案内されて、ゴドーとギリアムは食卓につく。非公式の訪問ということで小さな部屋での会食となったが、供された料理はどれも美味しく、ゴドーはすっかり寛いだ。出された酒の酔いも手伝って、食事の終わる頃になると、眠気が襲ってくる。ゴドーは欠伸を噛み殺した。

「…王の搾取も、リンシュルにはあまり関係がないようだな…。街も州候殿も、華やかで」

 ゴドーがグラスに残った葡萄酒を飲み干して、上座のミルレットに言う。ミルレットは持っていたグラスをテーブルに置き、頭を振った。

「そんなことはないのよ…。他の州に比べれば緩やかだけれど、王の理不尽な搾取に対する不満が出始めているわ。この街だって、裏通りに行けば、物乞いも多い。先王の時代には居なかったのに。この街自体はそれ程困っていない。だから、他の州から、貧困に喘ぐ人達が流れてきている。何とかしなければ、と思っているのだけど」

 ミルレットは、意味ありげな視線をギリアムに送るが、ギリアムは静かに繊細な菓子を口に運ぶ。酒には手をつけていなかった。

「そうか…誰か王を諌めるものがあればいいのだが」

「少なくとも、今の側近には居ないでしょうね」

 ミルレットが立ち上がる。それが食事の終わりの合図となった。ゴドーとギリアムは使用人に案内されて、それぞれ客間に引き取った。

 案内された部屋に入るなり、ゴドーは着ているものを脱ぎ、素肌に夜着を羽織った。剣を身から外すと、自然と気持ちが解れる。

明かりを枕元の蝋燭一つにして、ゴドーは広い寝台に仰向けに横たわった。すぐに眠気が襲ってくる。ぼんやりとした頭に、王都で別れたリンジーの童顔が浮かんだ。任務を順調に終えて、早く合流できるといいが。

 …いつの間にか、眠っていたらしい。ゴドーは衣擦れの音で目が覚めた。蝋燭はとうに燃え尽きていて、部屋は闇一色である。ゴドーは手探りで剣を手元に置くと、上半身を起こす。

 心地よい眠りの気だるさは、そう簡単にゴドーの身から出て行ってはくれなかった。部屋にある気配に殺気を感じないから、尚更だ。ゴドーは軽く頭を振る。

 花のような甘い香りが、一瞬ゴドーの鼻先を掠めた。直後に、柔らかな重さを感じる。

「…ゴドー様」

 いっそ賊であったらよかったのに。ゴドーは声も出ない。闇に慣れた目に、自分の胸に顔を寄せるフアナが映る。フアナは夜着の乱れた厚い胸に顔をすり寄せ、それから熱に浮かされたような目で、ゴドーを見た。

「私を、どうお思いでしょうか、ゴドー様」

 発せられた密やかな声とともに、甘い香りが強くなった気がした。どうもこうも、ゴドーはただ動転して、自身の上に居るフアナから離れた。

「フアナ、情けないと笑ってもいいが、俺は簡単に女を抱かないことにしている」

 ゴドーの言に、フアナの瞳が揺れた。フアナは薄物しか身につけていず、正直、健康な男には目の毒だ。ゴドーは視線をフアナが傷付かない程度に逸らし、寝台に胡坐あぐらをかいた。

「ゴドー様、私、結婚なんて、面倒なことは申しません。ただ、一夜でも良いのです」

「ま、待て。話を聞け」

 迫るフアナに、ゴドーは少し後ろに逃げた。寝台から落ちそうになる。何とか体勢を立て直すゴドーの上半身に、しなやかな身体が巻きついてゆく…。


 闇に、フアナの吐息が響いた。



 ………


 明け方が近づいている。

 西の空に消えゆく月明かりを受けて、静まり返った冷たい回廊を歩く人影に、後ろから声がかかった。

「どうだった?小娘。豹のような殿方のお味は」

 回廊に点在する白い柱の陰から現れたのは、センシア州候。人影は振り返り、胸元の大きく開いた薄物をかき合せる。

「…素敵でしたわ」

 やっと言うフアナに向けられるミルレットの目は、哀れみを含んでいるように見えた。実際はそうでないのかもしれない。フアナの心がそう見せているのだ。耐え切れず、フアナは自身の足元を見る。そして、少しの沈黙のあと、自嘲するように肩を竦めた。

「嘘ですわ。私、振られました。命を救われた感謝の気持ちを、恋と取り違えているのだ、と…諭されてしまいました」

 顔を上げたフアナの目には、涙がある。ミルレットは気付かないふりをして、空の彼方に消えゆく月を見る。

「小娘、ああいう静かな男ほど、難しいと心得ておくことね。そんな男に限って、いざ恋をしたら、激しい恋情で相手を追うことも…」

 ミルレットの言葉は、芝居がかっている。だが、この場にはぴったりと合っていた。フアナには容易に想像がつく。見たことは無くても。ゴドーの熱くたぎる様な、翡翠の瞳が。

「私がその相手だったらよかったのに」

 過ごした時間の長さなど関係ない。本気だったのに。

「小娘、アナタ、役者に向いてるわ。そこらへんのお嬢さんたちには無いものを持ってる」

 ミルレットがフアナの肩に触れた。その言動からどうしても華奢な手を勝手に想像するが、彼の手は大きい。そのあと、派手な羽毛のついた羽織が、フアナの凍えはじめた肩にかけられた。

「私が…何を」

 フアナの呆けたような問いに、ミルレットは悪戯っぽく笑った。

「アナタ、自分に酔い易い。それ、役者には大事なことよ」

「まあ!ヒドイ…でも、もし役者として人気が出たら、ゴドー様は私を振り向いてくれるかしら?」

「アナタも大概しつこい女ね…。ま、それも役者向きよ」

 思ってもいない人材が手に入ったかもしれない。ミルレットは情欲に負けなかったゴドーに内心で拍手を贈った。

 


 月明かりは消え、代わって橙色の滲むような朝日の欠片が、二人を照らし始めていた。



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